労働災害情報メールマガジン
編集・発行:株式会社扶双 手袋のソムリエ 労働災害情報メールマガジン編集部
2025年8月8日
このメールマガジンでは、前月の主要な労働災害の発生状況から、注目すべき具体的な事例、そして明日から実践できる安全対策のアドバイスまで、多角的な視点から労働安全衛生情報をお届けします。
1. 前月の主な労働災害発生状況と動向
前月(2025年7月)に日本国内で発生した労働災害の全体像と主要な動向についてご報告します。
厚生労働省が発表する最新の月次速報値は、通常、翌月の下旬に公表されます。そのため、2025年7月の確定的な労働災害発生件数や死亡者数などの詳細は、現時点(2025年8月8日)ではまだ発表されていません。
しかし、直近で発表されている2025年6月までの速報値から、労働災害の動向を把握できます。
全産業の労働災害発生状況(2025年6月速報)
厚生労働省が発表した2025年6月までの労働災害発生状況(速報値)は以下の通りです。
- 全産業の死傷者数: 2025年1月1日~6月30日までの死傷者数は、32,041人でした。これは、前年同期の30,802人と比較して約4.0%の増加です。
- 死亡者数: 同期間の死亡者数は141人でした。これは、前年同期の154人と比較して約8.4%の減少となりました。
(参照元:厚生労働省 職場のあんぜんサイト 労働災害発生速報 2025年6月速報)
業種別・事故の型別傾向(これまでの動向)
詳細な月次データ(業種別・事故の型別)は通常、翌月の下旬に公開されますが、これまでの傾向から以下の点が引き続き注目されます。
- 建設業: 高所からの墜落・転落事故、建設機械によるはさまれ・巻き込まれ事故が引き続き多発傾向にあります。特に足場作業や重機周辺での安全管理の徹底が重要です。
- 製造業: 機械設備によるはさまれ・巻き込まれ、切創(切断・刺し傷)事故が依然として多く報告されています。作業手順の厳守、保護具の適切な使用、機械の安全装置の点検が不可欠です。
- 陸上貨物運送事業: 交通事故や荷役作業中の災害が目立ちます。過重労働による疲労や、不適切な積載方法なども事故につながる要因となります。
- 商業・飲食店・社会福祉施設等: 転倒災害、腰痛などの災害が増加傾向にあります。特に高齢化が進む中で、介護現場での介助作業における身体的負担や、通路の整理整頓が課題です。
2025年7月の詳細な統計データが発表され次第、次号のメールマガジンにて速報としてお伝えいたします。
2. 注目すべき労働災害事故事例の深掘り
前月に発生した労働災害の中から、特に教訓となる重大事故事例を厳選し、深く掘り下げて解説します。
【現在の状況】
2025年7月に発生した個別の労働災害に関する詳細なニュース記事や公式発表は、現時点(2025年8月8日)では確認できませんでした。労働災害の報道にはタイムラグがあること、また個別企業の情報は詳細に公開されないケースがあるため、ご理解いただけますようお願い申し上げます。
ただし、2025年7月は猛暑が続いたことから、熱中症による労働災害の増加が懸念されます。ここでは、熱中症対策に関する具体的な行政指導の事例から、企業が取るべき対策を深掘りします。
注目すべき事例:熱中症による労働災害と行政指導の傾向
厚生労働省は、熱中症による労働災害防止のため、毎年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しており、労働基準監督署による監督指導も強化しています。
事例の傾向:
- 建設現場: 屋外作業が多いため、WBGT値の測定を行わずに作業を継続し、作業員が熱中症で倒れる事例。
- 製造工場: 高温多湿な環境下で換気が不十分なまま作業を行い、複数の作業員が熱中症の症状を訴える事例。
- 物流倉庫: 空調設備がなく、休憩場所も確保されていない環境で作業を行い、熱中症を発症する事例。
発生原因の分析:
これらの事例の背景には、共通して以下の問題が指摘されます。
- リスクアセスメントの不実施: 暑熱環境下での作業におけるリスクを事前に評価し、具体的な対策を講じていない。
- 管理体制の不備: WBGT値の測定や休憩時間の確保など、管理者が熱中症予防措置を適切に実施していない。
- 作業者への教育不足: 作業員が熱中症の初期症状や適切な水分・塩分補給方法、緊急時の対応を知らない。
- 休憩場所・設備の未整備: 涼しい休憩場所や水分補給のための設備が十分に確保されていない。
具体的な再発防止策:
- WBGT値(暑さ指数)の活用: 作業場所のWBGT値を定期的に測定し、その値に応じて作業時間短縮、休憩時間の延長、作業内容の変更などの措置を講じる。
- 休憩場所の確保: 空調の効いた休憩場所を確保し、水分・塩分補給ができる環境を整備する。経口補水液や塩タブレットの配布も有効です。
- 作業者への安全教育: 熱中症の症状、予防方法、応急処置、緊急時の連絡体制について、作業員に周知徹底する。特に、2025年6月1日から義務化された熱中症対策に関する規則についても再確認する。
- 巡視・健康チェックの実施: 管理者による定期的な巡視や、作業前の健康チェックを徹底し、体調不良者を早期に発見する。
この時期は特に、熱中症の予防が最も重要な安全対策となります。上記を参考に、自社の労働環境を見直し、必要な対策を講じてください。
3. ヒヤリハット事例から学ぶ
大きな事故には至らなかったものの、一歩間違えば重大な労働災害に繋がりかねなかった「ヒヤリハット」事例は、事故予防のための貴重な学びの宝庫です。今回は、職場のあんぜんサイト「ヒヤリ・ハット事例集」(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/hiyari/anrdh00.html)から、特に皆様の職場にも潜む可能性のある3つの事例をピックアップしてご紹介します。
事例1:フォークリフトと作業員の接触寸前事例
- 事例の概要: 工場内でフォークリフトが荷物を運搬中、死角から急に作業員が飛び出し、接触寸前でフォークリフトが急停止した。作業員は荷物の影に隠れてフォークリフトに気づいていなかった。
- なぜ「ハット」したのか: フォークリフトの運転手が危険を察知し、瞬時にブレーキをかけたため、接触を免れた。もし運転手の反応が遅れていれば、作業員はフォークリフトにはさまれる、またははねられる重大事故につながっていた可能性が高い。
- 教訓と対策:
- 死角対策の強化: フォークリフトにバックミラーの増設や、後方確認モニターの設置を検討する。
- 通路の明確化: 人とフォークリフトの通路を完全に分離するか、交差する場所には「一時停止」「左右確認」などの注意喚起表示を設置する。
- 警報装置の活用: フォークリフトに接近警報装置や、作業員が身につけるタイプの検知器を導入する。
- 作業員の安全意識向上: フォークリフトが通行する場所では周囲の状況をよく確認するよう、作業員に繰り返し注意喚起を行う。
事例2:濡れた床での滑り転倒事例
- 事例の概要: 飲食店で、従業員がドリンクをこぼし、すぐに拭き取らずにそのままにしていたところ、別の従業員がその場所を通りかかり、滑って転倒しそうになった。幸い、手をついて軽傷で済んだ。
- なぜ「ハット」したのか: 転倒した従業員が咄嗟にバランスを取り、手をつくことができたため、頭部打撲などの重篤な怪我には至らなかった。もし両手がふさがっていたり、受け身が取れなかったりすれば、骨折や頭部外傷の可能性があった。
- 教訓と対策:
- 清掃・拭き取りの徹底: 液体や油分をこぼした際は、速やかに拭き取ることを全従業員に徹底する。
- 注意喚起の表示: 拭き取り作業中や床が濡れている間は、「滑りやすいので注意」などのサインを設置する。
- 滑りにくい床材の検討: 必要に応じて、滑りにくい加工が施された床材への変更を検討する。
- 滑りにくい靴の着用: 滑りにくい靴底の作業靴を支給・推奨し、着用を義務付ける。
事例3:高所作業での工具落下事例
- 事例の概要: 工事現場で、作業員が脚立上で作業中に、ポケットに入れていたドライバーが落下し、真下で資材を運んでいた別の作業員の足元すれすれに落ちた。
- なぜ「ハット」したのか: ドライバーが直接作業員に当たらず、わずかにずれたため被害はなかった。もし当たっていれば、頭部や足への直撃で重傷を負っていた可能性が高い。
- 教訓と対策:
- 工具落下防止策の徹底: 高所作業時には、工具を専用の工具袋に入れるか、落下防止コードで身体に繋ぐことを義務付ける。
- 作業範囲の明確化と立ち入り禁止措置: 高所作業を行う場所の下には、関係者以外の立ち入りを禁止する区画を設定し、明確に表示する。
- 保護帽の着用義務化: 作業員は、上からの落下物から身を守るために保護帽(ヘルメット)を必ず着用する。
- 作業前ミーティングでの危険予知: 作業開始前に、落下物の危険性を具体的に話し合い、対策を確認する。
(参照元:職場のあんぜんサイト:ヒヤリ・ハット事例集)
4. 今月の安全対策テーマとアドバイス
前月の労働災害動向や注目すべき傾向を踏まえ、2025年8月に特に注力すべき安全対策テーマを設定し、実践的なアドバイスを提供します。
8月は引き続き猛暑が続くため、熱中症対策と、台風シーズン本番を迎えることによる台風・集中豪雨対策が喫緊の課題となります。
今月の重点テーマ:熱中症と自然災害への備え
1. 熱中症対策の徹底
連日の猛暑が予想される8月は、屋外作業だけでなく、工場内や倉庫内でも熱中症のリスクが非常に高まります。
- 水分・塩分補給の徹底:
- 喉が渇く前に、こまめに水分(スポーツドリンクや経口補水液など)と塩分を補給しましょう。作業中に休憩を設け、給水ポイントを設ける。
- 作業員一人ひとりにマイボトルを携帯させるなど、意識的に水分補給を促す仕組みを導入しましょう。
- WBGT値(暑さ指数)の活用:
- 適切な休憩と作業時間の管理:
- 休憩時間を定期的に設け、涼しい場所で休憩させる。必要に応じてクールダウンできる場所(空調の効いた部屋、ミストシャワーなど)を確保しましょう。
- 作業強度や作業時間を見直し、暑い時間帯(14時〜16時頃)はできるだけ作業を避ける、または休憩を増やすなどの工夫が必要です。
- 通気性の良い服装と空調設備の活用:
- 吸湿性・速乾性に優れた作業服を着用し、体の熱がこもらないようにしましょう。
- 工場や倉庫内では、送風機、スポットクーラー、大型扇風機などを活用し、換気を徹底して温度を下げる努力をしましょう。
- 健康状態のチェック:
- 作業前に作業員の体調を確認し、発熱や倦怠感がある場合は作業を中止させ、医療機関を受診させるなどの対応が必要です。
- 熱中症の初期症状(めまい、立ちくらみ、頭痛など)を知り、異変を感じたらすぐに休憩し、周囲にも伝えるように指導しましょう。
2. 台風・集中豪雨時の災害対策
8月から9月にかけては台風の発生リスクが高まります。これに伴う土砂災害、浸水、強風による飛来物などの二次災害に注意が必要です。
- 気象情報の常時確認:
- 気象庁の発表する特別警報、警報、注意報に常に注意を払い、早めの対策を講じましょう。
- 気象庁
- 浸水・土砂災害対策:
- 事業所の立地条件を確認し、ハザードマップ(ハザードマップポータルサイト)で浸水区域や土砂災害警戒区域に該当しないか確認しましょう。
- 重要書類や機械設備は高所に移動させる、土嚢を積むなどの浸水対策を講じましょう。
- 斜面やのり面のある場所では、地盤の緩みに注意し、異常があれば直ちに作業を中止し、避難経路を確保しましょう。
- 強風対策:
- 屋外に設置されている看板、資材、工具類など、強風で飛ばされる可能性のあるものは、事前に屋内にしまうか、しっかりと固定しましょう。
- 高所作業やクレーン作業は、強風時には中止し、安全な場所で待機しましょう。
- 緊急連絡体制の確認と避難計画:
- 災害発生時における従業員の安否確認方法、緊急連絡網を再確認し、周知徹底しましょう。
- 避難場所、避難経路、避難時のルールなどを定めた避難計画を作成し、定期的に訓練を実施しましょう。
これらの対策は、労働者の命を守るだけでなく、事業の継続性を確保するためにも不可欠です。
5. 労働災害防止のためのオンラインセミナー・講習会情報と関連資料
労働災害防止には、継続的な知識の習得と情報収集が不可欠です。このセクションでは、今後開催される労働災害防止に関するオンラインセミナーやオンライン講習会情報を厳選してご紹介します。
今後のオンラインセミナー・講習会情報
現在(2025年8月8日時点)で一般公開されている2025年8月以降のオンラインセミナー・講習会情報の中から、特に注目すべきものをピックアップしました。
1. 労働安全衛生に関する無料オンラインセミナー(労働基準監督署主催)
- 開催日時: 各都道府県の労働基準監督署によって異なるため、各労働基準監督署のウェブサイトをご確認ください。(例:東京都労働局 https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/index.html)
- テーマ/内容: 労働安全衛生法改正のポイント、リスクアセスメント実施方法、熱中症予防対策など、季節に応じたテーマや法改正に応じた内容が頻繁に開催されます。
- 対象者: 企業の経営者、安全担当者、衛生管理者、現場監督者、人事担当者など。
- 参加方法: 事前登録制。各労働基準監督署のウェブサイトから申し込み。
- 主催者: 厚生労働省 各都道府県労働局・労働基準監督署
2. 産業保健に関するオンラインセミナー(独立行政法人労働者健康安全機構)
- 開催日時: 不定期。詳細は以下のURLでご確認ください。特に、労働者協同組合に係るオンラインセミナーが複数予定されています。
- テーマ: 「地域課題を解決する新たな選択肢」~労働者協同組合を活用した地域づくり~
- 次回以降: 令和7年9月27日(土)、10月29日(水)、12月13日(土)、令和8年1月21日(水)に労働者協同組合に関連するテーマでオンラインセミナーが予定されています。
- 対象者: 産業医、保健師、衛生管理者、事業場の担当者など。
- 参加方法: 事前登録制。
- 主催者: 独立行政法人労働者健康安全機構 産業保健総合支援センター(地域によって異なる)および厚生労働省
3. 安全衛生教育促進運動「見える化」セミナー(中央労働災害防止協会)
- 開催日時: 不定期開催。
- テーマ/内容: 労働災害情報の「見える化」を通じて、職場の安全衛生水準を向上させるための具体的な手法や事例を紹介。
- 対象者: 安全管理者、衛生管理者、リスクアセスメント担当者など。
- 参加方法: 事前登録制。
- 主催者: 中央労働災害防止協会(JISHA)
関連資料
日々の安全衛生活動を強化する上で役立つ、厚生労働省や独立行政法人労働者健康安全機構などから発表された最新の労働安全衛生に関するガイドライン、チェックリスト、マニュアルをご紹介します。
- 厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」資料:
- 厚生労働省「墜落・転落災害防止対策」に関するリーフレット:
- 職場のあんぜんサイト「機械災害防止のためのポイント」:
これらの情報や資料を活用し、貴社の安全衛生管理を一層強化されることを願っております。
6. 編集後記
今月の『労働災害情報メールマガジン』はいかがでしたでしょうか。
2025年7月の労働災害の動向はまだ速報値段階ですが、2025年6月までの死傷者数が前年同期を上回る増加傾向にあることは、改めて労働安全衛生への意識を高める必要があることを示唆しています。特に、8月は引き続き猛暑と台風シーズンが重なるため、熱中症や自然災害への対策は、労働者の命と健康を守る上で最も重要な課題の一つです。日々の業務において、これらのリスクに対する意識を高め、具体的な対策を実行していくことが、皆さんの職場における安全を守る上で何よりも重要です。
労働災害のない安全な職場環境を築くためには、日々の地道な努力と、常に最新の情報を学び続ける姿勢が不可欠です。私たちメールマガジン編集部は、これからも皆様に役立つ、実践的な情報をお届けできるよう努めてまいります。
本メールマガジンに対するご意見やご感想、取り上げてほしいテーマなどがございましたら、ぜひお聞かせください。皆様からのフィードバックは、今後のメルマガ作成の貴重な指針となります。
次号も、より一層充実した内容でお届けできるよう準備を進めてまいりますので、ご期待ください。
今後とも、株式会社扶双 手袋のソムリエ 労働災害情報メールマガジンをよろしくお願い申し上げます。